ドイツ・メルヘン街道自転車の旅2015(その13)ブレーマハーフェンからクックスハーフェン(5/6)

5月6日(水) 晴れ → 曇り/一時雨 ブレーマーハーフェンからクックスハーフェン(62km)
いよいよ自転車走行最終日です。今日はブレーマーハーフェンからクックスハーフェンまでの62km。途中、待ちに待った北海との出会いが待っています。どんな海なのだろうか。思いが膨らみます。ブレーマーハーフェンはヴェーザー川の河口港湾都市であるのに対して、クックスハーフェンはドイツ三大河川の一つエルベ川の左岸河口に位置する港町です。

①港湾都市ブレーマーハーフェン
午前9時にホテルを出発する。マルクト広場に大きな銅像が立っている。調べてみると、1820年代にブレーメン市長だったヨハン・シュミットという人物で、1827年にこの地をブレーメンの外港として開港した創始者だそうです。

マルクト広場からヴェーザー河畔に出て散策していると、オランダ人のサイクリストがやって来て、ブレクセンに行くフェリー乗り場を教えて欲しいと尋ねてくる。私たちが今まで辿ってきた自転車道を逆行し、取り敢えずハンミュンデンまで行く予定とのこと。その日に行けるところまで行き、次の日の行動を考えるのだそうだ。ハンミュンデンから先のことも決まっていないという、なんと気ままな自転車の旅を楽しんでいるのだろうかと、少々羨ましくも思いました。
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河畔の公園から少し離れたところに、レンガ造りのウンターヴェーザーの標識灯があります。この灯台は1850年代に建てられたそうで、当時としては先駆的なガスを使った灯台とのことです。1986年まで130年以上も利用されていたという歴史的な灯台です。霧が発生すると有効に利用することが難しくなるので、現在では無線方式の航路標識に置き換えられたようです。
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大型フェリーの出航風景を眺めたりして、公園散策を終えていよいよクックスハーフェンに向けて出発です。
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中心街を外れると、ブレーマーハーフェンの港湾都市としての機能を象徴する港湾施設が目の前に広がってきます。ガントリークレーンの数の多さには、神戸に住む私たちにとっても驚かされます。

さらに、自動車の積み出しでは面白い風景を見ました。港に横付けされた大型の自動車運搬船までの新車の輸送手段が、鉄道だということです。二階建ての運搬車両に新車が満載され、その運搬料には目を見張るものがあります。日本の大型トレーラーでの輸送と対照的な光景です。どちらかというと鉄道輸送の方がコスト的にも優位なのかも知れません。物流関係の企業に勤める知人に聞いたところ、日本ではインフラが整っていないので、鉄道輸送は困難とのことでした。
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②クックスハーフェンまでの道すがら
港湾施設を離れると、田園地帯の風景が戻ってきます。ヴェーザー川の土手は一面のタンポポで覆われ、自転車道を挟んで菜の花畑が広がり、透き通るような青空と白い雲の下に、若草の緑と黄色の花とが溶け込んで、爽快な気分でペダルを漕ぐ脚も軽やかです。

牧草地、耕作地の中には風力発電の風車の鉄塔がだんだんと増えてきます。村落から離れた風通しの良い平坦な土地に立っているので、冬は北海からの北風が、夏は南ヨーロッパからの風を受けて良く回るのだと思います。なにせドイツの電力需要の10%超を風力発電が賄うまでになったとのことです。
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ブレーマーハーフェンからクックスハーフェンまでの道すがら、牛をよく見かけました。交通標識には「牛に注意」というものまであります。
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クックスハーフェンまであと20kmを切ったところで、北海の海と初対面はまだです。その前に**ヴァルトという小さな森を通過します。ここで面白い現象が起こります。森に入る前から男女5,6人の70代前後のシニアのサイクリストの集団が縦列で走り、その後ろについて私たちは走っていました。

森を抜けるにはまず、上り勾配のダラダラとした坂道となります。当然スピードが落ちるわけですが、彼らはそんな上り坂をものともせずにぐいぐいと前に進み、私たちとの距離を開けていくではありませんか。こちらは結構力を入れているにもかかわらず、距離が開くとはどうなっているのか。どう見ても私たちの方が体力的に優っています。

しかし、ドンドン離されていくではありませんか。小さな峠を越えて森の出口に出たところで彼らの自転車を見ると、全て電動アシスト自転車でした。それなら、上り坂も苦労なく登れますね。私たちは常に自力で前に進んでいるのです。

ただ、私たちもいつかは彼らと同じ年齢に達するでしょうから、その時にまだ、自転車に対する熱い気持ちがあれば、体力的な衰えを電動アシストでカバーし、自転車旅行を楽しむことができるのだと、彼らはそんな楽しみを私たちに教えてくれました。
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③北海の驚きの海の色
森を抜けてしばらく進むと待ちに待った北海が目の前に現れてきました。午後1時10分過ぎにリゾート地、キッターパーク(Kitterpark)に到着する。

明るい日差しの下、私たちの目の前に広がる北海は、なんと海の色が茶色です。砂浜の明るい薄茶色に重なるようにして、深い茶色の海が広がっているのです。驚きました。生まれてこの方、「海は青い」という固定観念に支配されていましたが、北海の海を見てこれが覆され増した。では、何故茶色に見えるのか? これが分かりません。

このあたりの海岸は干潟のようで、打ち寄せる波も僅かな高さです。恐らく浅瀬がずっと遠くの沖まで続いているものと思われます。海底の砂の色や水深、そして太陽光線が相互に作用して、この海の色を作っているのではないかと想像します。
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リゾート地とあって観光客で賑わっています。海岸沿いのベンチでいつもの昼食です。風が強い。北海からの北風ではなく、南から吹き付ける風が、春の暖かさを含んでいるので心地良くもあります。昼食を済ませせて、いよいよヴェーザー川自転車道の最終到着地である、クックスハーフェンの岬の先端を目指します。余すところ5kmです。よくぞここまで自転車で走ってきたものだと、感慨もひとしおです。

北海を左手に眺めながらリゾート地の海岸線を走り抜け、午後2時50分、岬先端のクーゲルバーケ(Kugelbake)に到着する。春の風なのでしょう。南からの風は一段と強く吹き付けてきます。岬の先端には木製の古い灯台があります。ここが私たちの最終目的地点だったのです。クーゲルバーケとは直訳すると「球状の航路標識」となるのですが、高さは30mに及ぶかと思います。もちろん現在は使用されていませんが。案内板によると、初めて建造されたのは1700年初頭とのことです。現在保存されている形になったのは、1867年のこと。200年以上もの間、北海を航行する船の標識として重要な役割を果たしていたものと思われます。
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クーゲルバーケの下から北海を望むと、早速、クックスハーフェン港に入港しようとする大型のコンテナ船が、姿を現しました。クックスハーフェンは北海航路の出入り口であると同時に、ドイツ三大河川一つエルベ川の左岸河口に位置する都市でもあります。そして、対岸はユトランド半島の付け根にあたります。

対岸までは30km以上はあるかと思います。目を凝らしてみると、何と数え切れないほどのたくさんの風力発電の風車が、ものすごい回転速度で回っています。恐らく全ての風車が海岸線に並んでいるのではなく、ある程度の奥行きに立ち並ぶ風車が、遠方のため遠近感がなくなったものと思いますが、その数の多さと回転数に驚かされました。国内の電力需要の10%超を賄う、ドイツの風力発電の底力を象徴する風景かと思います。
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④またも宿受難
12日間の自転車旅行を無事に完走し、家内とともにその達成感をじっくりと味わいながら街の中心部に向かいます。午後4時前にツーリスト・インフォメーションに到着。今晩の宿は、Bette+Bikeで検索した"Hotel-Pension Appelt"というサイクリスト向けのペンションです。クックスハーフェンはドイツの有数の保養地のようで、Booking.comでは100€前後の宿しかリストに載ってきません。そこで中心地からは数km離れていますが、朝食付きで65€のこの宿を第一候補としたのです。

ツーリスト・インフォメーションで地図とこの宿の住所から場所を確認し、上り坂の一本道を走り出したところ、急に雲行きが怪しくなりポツリポツリと雨粒が落ちてきます。とにかく急がねばと、ペダルを踏む足に力が入ります。15分ほど走ると目的の宿はすぐに見つかりました。ただ、宿の周りに自動車が何台か止まっていて、ちょっと嫌な雰囲気です。

宿は少し大きめの普通の家で、日本の民宿といった感じです。呼び鈴を押すとインターホン越しに女性の声が聞こえ、今晩泊まりたいと話すと、何やら早口のドイツで話してくるのですが、ほとんどキャッチできません。しばらくして玄関先に現れて、今日は満室だと無碍もなく断られてしまったのです。

いやはや、またしても宿受難です。今回の旅行で4回目。もう慣れっこになったとはいえ、よりによって走行最終日に起こるとは、トホホ、、、です。こうなれば、頼るところはツーリスト・インフォメーションということになります。小雨の中をツーリスト・インフォメーションに着くと、なんと本日の営業は午後4時半までということで、入り口の扉は閉ざされ人影もありません。これはエライことになったなぁ、とインフォメーションの前で呆然としていると、突然雨脚が強くなり、極地豪雨です。泣きっ面に蜂とはこのことかと。

取り敢えず、近くのお土産屋さんの屋根付きテラスに避難して、どうするかと家内と頭を捻るのですが、良い知恵が浮かびません。お土産屋の店員さんに相談したところ、宿ならこの辺りにいくらでもあると教えてくれました。雨が小止みになるのを待って、歩いて回ってみると確かにリゾート地らしい高級なホテルが幾つかありますが、どれも私たちサイクリストには不釣り合いなホテルばかりです。最後は覚悟を決めるかと思っていると、道路沿いに"Pension Meereswoge"という看板を掲げた一軒の家が目に入りました。

「ペンション 海の大波」とでも訳すのでしょうか。大きな家ですが、一見して普通の家です。玄関お呼び鈴を押すと、中学1年生くらいの賢そうな男の子が出てきたので、今晩宿泊できるかと聞くと、お父さんを呼んでくるからまているようにと、英語で答えが返ってきました。こちらの子供達は、外国人に話しかけられたら英語で応対するようにと教えられているのでしょうか。

暫くして、お父さんがやって来ました。お父さんの方は英語は得意ではないようで、今度はドイツ語での会話です。朝食付きで72€ということで即決です。部屋はとても清潔に整えられていて、私たちサイクリストにとっては申し分のない宿です。午後5時過ぎ、宿受難も解決です。ほっと一息、旅行最後の洗濯を済ませて、近くのスーパーに買い出しに出かけました。宿さえ確保できれば、あとは買い物と晩御飯をゆっくりと楽しむことができます。

いつものようにミネラルウォーター、果物とワインにおつまみを購入。このスーパーの果物売り場で面白い表示を見ました。西洋梨の表示が、写真のように"Nashi-Birne"と書かれているのです。"Birne"が、「西洋梨」を意味するにもかかわらず、その前に日本語の"Nashi"という言葉をつけている表示は初めて見ました。何か訳があるのでしょうが、そこまでは分かりません。こんなところで日本語表示を目にするとは思いもよりませんでした。
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買い物を済ませると、時刻は午後7時過ぎですが、まだ、日は沈むことなく夕暮れ時の海岸線を暫く散歩しました。海岸には黄色のボックスが数多くあるので、何かと近づいてみると、カップル用のベンチでした。ボックス構造になっているのは風よけなのでしょう。面白いものがあります。
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晩御飯はスーパーの近くのレストラン街の一角にあるファミレスです。メニューは北海の魚、鮭と鱸のフライとシュパーゲル、焼きジャガイモ、生野菜のサラダ、そしてヴァイツェンビールです。ヴェーザー川自転車道を走り切ったという満足感とともに、最高のディナーになりました。
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4月25日にカッセルを出発し、グリム童話の舞台を縫いながらハーメルン、ブレーメンと、メルヘン街道の要所を観光し、ここ北海の港町クックスハーフェンまでの約630kmの道のりを、12日間をかけて走った自転車旅行。充実した12日間でした。時速20kmの目を通してドイツの小都市をつぶさに眺めることができました。何気ない日常の風景から、それを日本と比較しながら一歩突っ込んで考えてみると、日独のエネルギー政策や農業政策の根本的な違いが炙り出されてくるような考えにもたどり着きました。

旅行を終えてこの旅行記の第1話をブログにアップしたのが5月20日、それからなんと3ヶ月も掛かってしまいました。もし最初から読んでいただいている方がいらっしゃいましたら、本当に長い間お付き合いいただきありがとうございます。次回、クックスハーフェンからフランクフルトまでのドイツ鉄道の旅を記録してこの旅行記を終えたいと思います。

【走行データ】
走行距離:61.84km
平均時速:17.1km/hr
最高時速:30.2km/hr
走行距離トータル:627.48km

この記事へのコメント

伊太利屋次郎
2015年08月30日 21:43
とうとう北海ですね。完走ご苦労様でした。地図を見てもどこまでがヴェーザー川でどこから北海なのかわかりませんでした。ヴァッテン海(干潟)はその昔に住んだ九州の有明海を思い出させました。
我々もドイツ自転車旅ではしばしば電動アシスト自転車の高齢者に出会いました。カミさんと「あそこまでできるかな」と感想を交わしたものでした。私が所属しているサイクルクラブでは,1日ツーリングや〇〇一周ツーリングなどを催していますが,電動アシスト自転車での参加者はいません。ロードレーサーの爺さんばかりです。きょうびの日本の自転車文化はドイツから見るとヘンテコな方向に行っているのじゃないかという気がしています。もっと気楽に自転車を楽しめばいいのにと思いますがね。
最後のドイツ鉄道の旅の文が待ち遠しいです。そうそう,奥様のお顔を拝見できましたこと嬉しく思いました。
どるふぃんきっく
2015年08月31日 12:35
伊太利屋次郎さん
コメントありがとうございます。
ドイツの自転車文化は、国内を自転車専用道路が網目のように整備されていることからも、日本のそれとは比較にならないほどのレベルの高さにあると思います。電動自転車を乗っているお年寄りの方々は、どこにでもいるような普通のお年寄りです。専用道路を自動車を気にせず安心して走れることが、お年寄りを含めて広く自転車文化が浸透し得る土台を作っているのだと思います。

翻って日本はどうかというと、自転車専用道路網などは、現時点で期待できるものではなく、ツーリングをしようと思えば、長距離トラックが行き交う国道を恐々と走る以外に方法はありません。そんな状況でお年寄りに自転車ツーリングを推奨できるものではありませんよね。
この点が日独の自転車文化の根本的な違いだと思います。日本では電動自転車は日常的な買い物等の利用程度の普及ではないでしょうか。
健康維持のために自転車を楽しめる社会というのは、今後、高齢化が進む日本にとって、お年寄りの良き手段になり得ると思うのですが、それには組織的な自転車網の整備が不可欠ではないかと思います。