2016欧州自転車旅行記(5/10)

5月10日(火) 曇りのち雨 ヴィースバーデン (Wiesbaden)→バハラッハ (Bacharach)


欧州自転車旅行もいよいよ最終段階です。今日はドイツワインの名産地の一つ「ラインガウ」に入ります。ライン河は、マインツでそれまで北に向けた流れを大きく左に変え、西に進みます。マインツからコブレンツまでの約100㎞は、「ロマンチック・ライン」とも呼ばれ、多くの古城とぶどう畑が広がります。特に西向きに流れる区間の右岸地域は「ラインガウ」と呼ばれています。斜面が南側を向いていることから日差しが一日中当たり、また、北風を防ぐことができ、温暖な気候と肥沃な土地が相まって、芳醇な実を有するぶどうの栽培に適した地域だということです。特に、リースリング種が有名です。

このコースを2日に分けて走ろうというのが今回の計画です。この日はヴィースバーデンからリューデスハイム(Rüdesheim)までを自転車で走り、そこからバハラッハ(Bachrach) までをクルーズ船で「ライン下り」を楽しみます。
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当日の朝にちょっとしたトラブルが発生しました。朝食は朝6時からと聞いていたので、6時ちょうどに朝食ルームに行ってみると、照明はなく全く何も準備されていません。訳が分からず、部屋との間を行ったり来たりしながら1時間近く待った挙句、若い女性がフロントにやってきて、配膳スタッフが急病で代わりのスタッフも間に合わなかったとの説明ではありませんか。これには呆れてしまいました。大変な剣幕で抗議する宿泊客もいたりして、フロントは大混乱。僅かばかりのパンとハムが用意されましたが、私たちは朝食代を返金してもらいチェックアウトしました。

すぐにヴィースバーデン中央駅に向かい、駅構内のSUBWAYで朝食をとることに。観光地や大きな町で宿泊する時は、素泊りにして駅のファーストフードで朝食をとるというスタイルも良いかもしれません。SUBWAY以外にもいくつかありました。

1.HANS LANG醸造所でのワイン工場見学とテースティング
今回の自転車旅行では、「ラインガウ」を走行する時に、是非とも美味しいワインを味わい、そしてクルーズ船で「ライン下り」を楽しみたいと考えていました。幸いにも、高校のSNSで知り合いになった先輩で、ドイツをはじめワインの取引を幅広くされているOGさんからラインガウの醸造所を紹介していただけるというお話がありました。願ってもないチャンスです。事前にOGさんに依頼をしてこの日に訪問することでアポイントメントを取りました。ハッテンハイム(Hattenheim)というマインツから西に約20㎞のところに位置する小さな町に、ぶどう畑と工場を構えるHANS LANG(ハンスラング)醸造所です。

朝食後、ヴィースバーデン中央駅からザール通りを南西方向に6㎞程進み、シーアシュタイン(Schierstein)という町でライン河自転車道に合流。一般道のザール通りは主要道路なのか交通量が多く、また、途中交通事故が発生したりで気を使い走行となり、予想以上に時間が掛かってしまう。やはり、ドイツでは自転車専用道路に限ります。
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シーアシュタインのハーバーで小休止。
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ライン河自転車道をハッテンハイムに向かう。両側の斜面にはブドウ畑が隙間なく続きます。

シーアシュタインからハッテンハイムまでは12,3㎞です。途中、エルトフィレ(Eltville)、エアバッハ(Erbaha)というワイン醸造所が建ち並ぶ小さな町を通過します。エルトフィレは古城とワインの町で、14世紀から16世紀にかけてマインツの大司教の居城だった古城があるそうです。城壁は17世紀前半の30年戦争の時に破壊されたそうですが、高い塔が残っていて、不遇な晩年を送ったグーテンベルクが、大司教に助けられてこの城の一室に住んで余生を送ったとのことです。今はグーテンベルク博物館になっていて、ゆっくり見学をしたいところでしたが、ハッテンハイムへ向けて先を急ぎました。

HANS LANG醸造所には午前10時半過ぎに到着する。ちょうど改装工事の真っ最中で、忙しい中を奥さんのエバさんと息子さんに温かく迎えていただきました。ストラスブール滞在中の5月6日に、エバさんにメールで自転車の旅は順調、予定通り5月10日の午前中に訪問できるだろうとご連絡をし、その後も工場見学のお願いやワインのことで質問をしたりしていたので、初対面でしたがすぐに打ち解けた雰囲気になれました。

到着後、早速工場見学です。ワインの醸造工程をプロセスの順番にしたがい、装置を見ながら詳しく説明をしていただきました。ワインの味は、その年の日射量やぶどう畑の斜面の位置、土地の肥沃度の微妙な違いなど、ぶどうの生育に係わる種々の要因によって微妙に変わるそうです。もちろん摘み取る時期によっても大きく変わります。その年に収穫されたぶどうを、これらの要因を考慮しながら仕分けをするそうです。発酵用の金属製のタンクは大小さまざまに並んでいました。
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HANS LANG醸造所の工場内で。

工場内で写真を撮るのは控えたのですが、熟成樽の前でその大きさに感激し、了解をいただいて記念に1枚撮らせていただきました。現在、この樽は今年の収穫に向けてお休み中だそうです。ワインを全部抜き取った熟成樽には、亜硫酸とクエン酸を加えた水を充填し、休ませるそうです。亜硫酸とクエン酸の抗菌と抗酸化作用が樽の内部を守るのだそうです。
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直径2.5mはある熟成樽。現在、水を充填して休息中とのこと。

さて、工場見学を一通り終え、いよいよテイスティングです。本来はテイスティングルームでするそうですが、改装工事中とのことで工場内のテーブルにエバさんが順次ボトルを並べ、一つ一つ説明を受けながら楽しみました。通常は、有料だそうですが、OGさんのお力添えがあり、私たちは無料でいただけることになりました。先輩に感謝です。
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ワインテースティング中。

ドイツワインは白がメインですが、ご承知のように白にも辛口と甘口があります。テイスティングは辛口(trocken)から始めるそうです。辛口も4つの段階があって、レベル1は、いわゆるテーブルワインとしてどんな料理にも合って気軽に飲める、手軽な値段のものだそうです。レベル4に向けて辛口の度合いもきつく個性的になり、値段も少しずつ上がっていくようです。これをレベル1から4までを順番にテイスティングさせていただきました。同じレベルでも収穫年によって微妙に違うそうです。なるほどと頷きながら、香りと酸味を楽しみました。

辛口ワインのテイスティングを終えて、続いて甘口ワイン(Süßwein)に移ります。甘口もレベルが4段階に分類されているそうです。まずはレベル1から始めます。レベル2になると、口の中に広がるほのかな甘い香りと軽やかなフルーティーな味覚が増してきて、何とも言えません。レベル3は”シュペートレーゼ(spätlese)“と言われる、その名の通り「遅摘みぶどう」で作られたワインです。少し黄色味かかった色で、口の中に広がる香りとフルーティーな味わいはレベル1,2の比ではありません。さらにレベル4になるとワインボトルがハーフボトルと小さくなります。“beerenauslese“と表記されたアウスレーゼです。日本では「貴腐ワイン」と呼ばれるように、エバさんの話によると、ぶどうの実の水分がほとんどなくなるまでに腐らせたぶどうを使って発酵させるそうです。黄色みを帯びた液体は、グラスの中で少し重みのある動きをし、重厚感のあるフルーティーな味わいに家内も私も感激しました。本格的なワインのテイスティングは今回初めてで、家内と共に至福の時を過ごすことができました。
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辛口からはじまって最上酒のアウスレーゼまで12種類のリールリングをテースティングさせていただきました。

さて、全部で12種類のテイスティングを楽しんだ後は、どれを選んで日本に送るかです。当初予算では日本への送料や税金を考えると6本くらいかと考えていたのですが、プライス表を見て驚きました。さすがにアウスレーゼの高級品は、「えっ」と声が出そうな値段でしたが、それ以外は辛口、甘口共に8~20€と予想外の安価です。

空輸の場合、輸送費は6本単位で加算されるとのことで、6本にするか、12本にするか、しばらく悩みました。輸送費の増加を計算すると1本あたり2€ちょっとです。こんな機会は滅多にないことなので、思い切って12本買うことにしました。2本は欲しいというワインもあり、結局9種類12本を個人輸入することに。エバさんによると、いずれも日本には輸出されていないものだとのお話でした。また、現在、ご主人はスイスでもぶどうの栽培に力を入れていて、一昨年より出荷したというワインも加えました。確かにハッテンハイムで取れるワインの味とは大分違うなとの印象でした。なお、これはワインを日本で受け取った時に分かったのですが、ワインにかかる酒税の安さに驚きました。もちろん、個人輸入だからだと思いますが。12本に対して数百円レベルです。
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終始にこやかに説明をしてくださったエバさんと。

醸造所を出発したのはお昼近くでした。
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ハッテンハイムの街並み。本当に小さな、可愛らしいワイン醸造所の街でした。
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ちょっと変わった木組みの家。
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さぁ、これからリューデスハイムへ向かいます。約12㎞。
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自転車道路はライン河右岸すぐ横を走っています。
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今にも降りそうだった空からいよいよポツリポツリと雨粒が落ちてきました。たまらず、雨具を羽織って走ります。リューデスハイムに到着した時には本降りになっていました。

2.リューデスハイム(Rüdesheim)観光
ハッテンハイムからリューデスハイムまでは約12kmの道のりです。テイスティングは基本はワインを口の中で香りと風味を楽しみ、スピッティング・バケツに戻すのですが、とはいうものの、少しは喉を通ってしまうものです。特に、私たちのレベルでは、ついついと。そんなこともあって、リューデスハイムまでは気分も身体も揺れながらの道中となりました。

朝から雲行きの怪しかった空からはとうとう雨粒が落ちてきて、いよいよ雨具を羽織っての走行となり、リューデスハイム到着時には本降りとなりました。波止場の近くの駐輪場に急いで自転車を停め、傘を差しての観光となりました。
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ドロッセルガッセ(つぐみ横丁)の入口にこんなマークが。
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道幅が5mにも満たないような路地の両側にレストランや居酒屋が続きます。
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この日は、ヴィ―スバーデンの宿で朝食トラブルがあり昼食を持参できず、横丁の中ほどにあるレストランで昼食をとりました。
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旬のシュパーゲル(白アスパラ)満載のシュニッツェル(カツレツ)。今回の旅行では何度かシュパーゲルをいただきました。はやり現地で食べると美味しい。
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ジャガイモのパテの上に盛り合わせた特大ヴィルスト2本とザウワークラフト。
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雨が降ったりやんだりのドロッセルガッセで。シュパーゲルとヴィルストで腹ごしらえを整え、これからロープウェイでゲルマニア女神像の立つニーダーヴァルトの丘に向かいます。
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このゴンドラに揺られて10分ほどで山頂に到着するのですが、途中から雨が降り出すと、日本のようにガラス張りでなく、風と雨がもろに体に当たります。雨具と傘で雨を防ぐものの難儀しました。晴れていると気持ちが良いのでしょうが。
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ゴンドラからライン河とビンゲンの町を望む。手前にはぶどう畑が広がります。
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1883年に普仏戦争(1870/71年)の勝利を祈念して完成したゲルマニア女神像。高さは38m。台座が26m、女神像が12mあるそうです。台座にはドイツ皇帝そしてプロイセン国王のヴィルヘルム1世が1877年に着工したとの記載がありました。

ニーダーヴァルトの丘からの眺めを動画でもどうぞ
https://youtu.be/epT8pYHEnGc

3.ライン下り
午後4時15分発、コブレンツ行きのクルーズ船に乗船する。あいにくの雨でデッキで古城を眺めることはできませんでしたが、船内でワインを片手にバハラッハまでの1時間余りのクルージングを楽しみました。
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「ライン下り」のクルーズ船の一つ。色々な形のクルーズ船が上り下りと頻繁に行きかっています。
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たまに、このような豪華な大型クルーズ船に出会います。客室を備えた数日間の優雅なクルージングを楽しめるようです。
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船内のレストラン。リューデスハイムからコブレンツまでは6時間余りの長旅になります。
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ビンゲンを出発してまず最初に右岸に現れる古城は、エーレンフルス城(Burg Ehrenfels)です。リューデスハイムで買ったマップの解説によると「15世紀ころ戦時のマインツ大聖堂の宝物の避難所として利用された城砦の廃墟。マインツ大司教のライン川関所として関税を徴収するにも最適だった。」(rahmelverlagライン川の流れ」より) 1689年にルイ14 世のフランス軍に破壊されて以来、廃城となったそうです。
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エーレンフルス城に続いて現れたのは、ライン河の中洲に建つねずみの塔(Mäuse-turm)。川の真ん中にあって、往来する船から関税をとるには絶好の場所だったと思います。この塔にまつわるマインツ大司教のハット―二世の忌まわしい話、農民に対する非情な施政と残虐な行為と末後の姿の話は、グリム童話の「ビンゲンのねずみの塔」の題材になったそうです。
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続いて左岸にラインシュタイン城(Burg Rheinstein)が現れます。この城も含めてここから左岸側に5つの古城が続きます。
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二番目に現れたのは、ライヒェンシュタイン城(Brug Rheichenstein)です。マインツ大司教によって11世紀に建てられた後、盗賊騎士の拠点、あるいは武装集団の巣窟となったそうです。背後は山に囲まれ、目の前にはライン河が流れ、悪人集団にとっては高い防衛力を有する格好の根城になったのでしょうね。現在はホテル・レストランになっているそうです。
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三番目の城はゾーネック城k(Burg Soonec)。11世紀初めに築かれ、ここも盗賊騎士の拠点となった悪名高い城だったそうでが、1253年に破壊されマインツ大司教の持ち城となり。その後、多くの所有者の変遷を経て、最後は19世紀にヴィルヘルム一世により再建されたとのこと。
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4番目はハイムブルク城(Heimburg)。プファルツ選帝侯がライン河谷の領地を守るために築城した城です。プファルツ選帝侯は、マインツ、ケルン、トリーアの三大司教と複雑に入り組んだ領地を角を突き合わせて、力の均衡を保っていたそうです。
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5番目に現れたのはフェルステンベルク城(Brug Fürstenberg)。ケルン大司教が13世紀初めに関税徴収所として築いた後、プファルツ選帝侯に奪われたそうです。選帝侯同士の領地の奪い合いも熾烈だったようです。
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バハラッハの宿に到着後、雨も上がり、左岸の山の頂上にあるシュタールエック城(Brug Stahleck)まで山道を散策。この城は1689年、ルイ14世率いるフランス軍に徹底的に破壊された城の一つで、その後廃城となったそうです。現在は、ユースホステルとなっていて、城の中から子供たちの可愛らしい声が聞こえてきました。
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シュタールエック城からライン川を望む。

動画でもどうぞ。
https://youtu.be/ntjlBMCmbp0

【走行データ】
走行距離:32.25km(累計:547.39km)

【ラインガウ(Rheingau)豆情報】
1.ハッテンハイム (Hattenheim)
ハッテンハイムはマインツ(Mainz)から西へ約20kmのところにある小さなワイン造りの村です。村の中心にある広場を中心に木組みの家々、ワインの酒蔵が並んでいます。城の塔は1118年に建造されたそうです。ぶどう栽培とワイン醸造は、中世・近世の修道院にとって修道士の日常生活と宗教活動を支える効率の良い収益手段であったようです。

「ラインガウ」のワイン造りは、フランスのブルゴーニュ地方出身のシトー会の修道士が11世紀にこの地にやって来て本格的なぶどう栽培が始まったそうです。シトー会とは、カトリック教会に属する修道会の一つです。「修道士は祈りと労働に徹しよ」という主義を厳格に守る宗派だったそうです。

2. ヨハニスベルグ (Johannisberg)
ヨハニスブルクは、ハッテンハイムからさらに西に5,6㎞のところにある「ラインガウ」の銘酒の地です。日本酒以上の銘柄がある中で、「ヨハニスベルク」は歴史的な逸品だそうです。

この地は1815年、ナポレオン失脚後の欧州の統治を巡って開催されたウィーン会議でハプスブルク家の所有となりました。当時のハプスブルク家の当主であり、オーストリア皇帝フランツ1世が、会議の議長を務めた宰相メッテルニヒにその功績をたたえ、ご褒美としてこの土地を与えたそうです。

丘の上に建つヨハニスベルク城は、今でもメッテルニッヒの子孫が所有していて、毎年ワインの新酒をハプスブルク家の子孫に送っているそうです。歴史と人の繋がりが脈々と続いているのを感じます。

3. インゲルハイム (Ingelheim)
インゲルハイムは、ライン河に左岸にある小さな村。8世紀のフランク王国時代、カール大帝の離宮があったところです。カール大帝は自らもぶどうを栽培し、醸造し、手作りの美酒を楽しんだそうです。

4. リューデスハイム (Rüdesheim)
リューデスハイムは、「ライン下り」の起点になっている小観光都市です。見どころというよりは、飲みどころだそうで、狭い路地の両側からは昼間からワインの香りとステーキやソーセージの匂いが土間いっぱいに広がっているとのこと。船着場の斜め向かいから山の手に向かうドロッセルガッセ (Drosselgasse:つぐみ横丁)という小路は、観光ガイドブックには必ず紹介される飲み屋横丁です。古風な家が軒を並べる居酒屋やレストランでが続き、賑やかな通りを作っています。

ドロッセルガッセを上り詰めたところに、ロープウェイの乗り場があり、ゴンドラで10分程でニーダーヴァルトの丘に到着します。この丘の上にはゲルマニア女神像の記念碑が建っています。この丘から望む「ラインガウ」の一望は、全体像を眺めることができ素晴らしい風景です。この女神像は、普仏戦争に勝利しプロイセンが、1883年にフランスへの勝利を誇示するモニュメントととして造られたものです。台座には「ラインの護り」の歌詞が彫り込まれています。

なお、ライン下りをする時に、乗船場の売店で絵地図を買っておくと、次々と現れる古城の名前を特定でき、古城巡りを楽しめます。日本語版があります。

(続く)
5月11日(水) 晴れ Bacharach(バハラッハ)→Koblenz(コブレンツ)
http://dolphin-kick55.at.webry.info/201609/article_4.html

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